7割の人に嫌われる店
この話はBlogを開設する前に自分のHPでも書いたのですが、面白い話だと思うので改めて掲載してみます。
どちらかというと「ラーメンよりカレー派」なので、話題の店や気になったカレーショップにはなるべく足を運ぶのだが、時折テレビや雑誌で紹介される、都内は高輪にあるカレーショップの「英国風特製カレー・サンライン」という店に行ったときの話。
最近ようやく少しは価格崩壊も進んだようだが、サンラインも名物カレーショップの常で値段が高めだ。一杯1,500円もする。
いわゆる「欧風カレー」というもので、具材は野菜も肉もすり下ろして濾している上、じっくり煮込んでいるので完全に姿を消しており、見た目には完全に、ゆる目のソースだけといった感じ。
メニューはこの1,500円のカレー1品のみ、他のメニューはない。大盛りすら用意されていないようだ。
サンラインの特徴は、カレーそのものよりも、その接客姿勢にある。
絶対に水を出してくれないのだ。
店頭に置いてあるハガキ大のパンフレット(写真)にもあるように「医食同源」をテーマとしており、カレーの薬膳効果に着目したとあるが、店主曰く、「水を飲むと薬膳効果が薄れるので水はお出ししません」とのこと。
完食した客に限り、デザートとして小さな抹茶アイスを出してくれる。
ここのカレー、結構辛めのなので水無しで飲むのはかなり辛い。辛さが苦手な人は最初から敬遠したほうが良さそうだ。
僕自身はというと、辛いものは大好きなので食べることはできるが、それでも水なしというのはやっぱりちょっと辛い。大体そのぐらいの辛さだ。
味そのものは、格別に特徴的なものはない。具がゴロゴロ入ったカレーが好きな人には物足らなく感じられるかもしれないが、カレーの味そのものはなかなかだ。とはいえ、個人的にはここより好きなカレーは他にもある。
近所で打ち合わせがあったついでに足を伸ばしたので、僕が店に入ったのは平日の午後3時ほどで、初老の夫婦がいるきり。その二人が去ると客は僕一人になった。
それでつい興味を持って、30代と思しき女性店主に話しかけてみた。
三田「他の、評判のお店のカレーは食べたりしますか?」
主人「一切食べないですね」
三田「最近、インターネットだけじゃなくTVや雑誌でも取り上げられてますよね?」
主人「ええ、でも出回ってる評判の7割は良くない評判ですけどね。(笑)」
三田「失礼ですけど、それで大丈夫なんですか?」
主人「こんな時代、普通のお店(飲食店)は、評判が悪いと大変でしょうね。でもウチは、2度3度と来てくださる方は、本当にうちのカレーを良いと思ってくださる方で、 (そういう方は)世間の評判には関係なく来ていただけますから、良くない評判を気にしたことなんかありません」
‥当時僕はこの話を聞いて、なにやらとてつもなく重要な話を聞いたような気がした。
その重要らしいことが一体何なのか、当時はハッキリと文章にできる自信はなかったのだが、今ならば少しは書けるような気がする。
◎存在さえ広く知らしめれば、愛されるのはごく一部だけで良い
その女性店主が、果たしてどの程度自分で意図していたのかは分からないが、「サンライン」のやり方というのは、小規模な事業者にとっての成功法則を、理想的な形で実践しているのじゃないだろうか。
飲食店の場合、特にカレーやラーメンのような定番ジャンルでは、残念ながら単に「おいしい」というだけでは、なかなか話題にはしてもらえず、マスメディアなどにも取り上げてもらえない。単なる口コミだけでは、宣伝効果は限定的なものとなり、店の立地条件や価格に左右される経営に陥りやすいことになる。
僕自身、ライターをやっているのでそのへんはよく分かる。一体、味の表現のような感覚的なモノほど、文章にするのが難しいものはない。これがプロのソムリエとかなら上手に味を表現することもできようが、世に大量に溢れているグルメコンテンツすべてに対して、巧みに味を文章表現できるライターがそれほど多数いるはずはない。
それで、テレビや雑誌、さらにWEBサイトなどもそうだが、味を伝えることは最初から諦め、他の手法を使ってその店の人気や評価の高さを表現しようとする。
‥いわく、「行列がすごい」とか、「非常識に安い」とか「大変な大盛り」やら「チャーシューがでっかい」やら「ポテトだけ別皿で出す」、「雰囲気が家庭的」、「オヤジさんが怖い」などなど、何か「記事にできるだけの特徴」を、わかりやすく説明しないといけない。
こうした理屈で考えると、サンラインのようなお店は、「まずは店の存在を広く知らしめる」という点については、実に上手くやっていると思う。まず、「カレー屋のクセに水を出さない」ということそれ自体が話題性になりうる。さらには、「完食すると抹茶アイスが出る」という「ゲーム性」も、話題に華を添える。
今日、外食というのは、それ自体が一つの「レジャー」なので、食における「テーマパーク性」というのは重視されるわけだ。
また、こうしたやり方は、いわゆる「バイラル効果(口コミ効果)」を上げる上でも効果的なはずだ。
かの有名な実践マーケターの神田昌典氏は、「口コミが起こる条件」として、「15秒で特徴を説明できること」という名言を残しているが、至言だと思う。確かに、友だち同士の軽い世間話程度の中では、説明するのに何分もかかるような複雑な概念ではバイラル効果は起こらないだろう。
サンラインは、上記のような条件をちゃんと備えていると思う。
それで、いざサンラインに興味本位で来店した客の多くは、カレーの味こそ良いが、辛いのに水が出ないことに辟易することになる。多くは二度と来店しないことだろう。
しかし同時に、店頭に「医食同源」「体に良い」などと書かれたチラシを読んで、そのキーワードが心に響いた、残る何割かの客はリピーターとなってこの店に再度足を運ぶことになるだろう。
断っておくが、こうした「成功法則」というものは、いわゆる大企業が使えるやり方とは思えない。大企業は往々にして、そのスケールを維持するためには8割の人間にとり「好ましい」と感じられるものを出し続けていかねばならないからだ。
ただし、メニューが一種類しかなく、一人で一店舗を切り盛りすることができるような規模の飲食店にとって、サンラインのようなやり方こそ、効果的なのではないかと思う。
サンラインはカレー屋だが、特にラーメン屋などを含めて見てみても、話題になっていたり繁盛している店の多くが(イコール「おいしい店」とは限らないが)、実はこうした法則に則っていることに気が付くのではないだろうか。
ラーメンやカレーというのは、基本的にB級グルメであるが故に、「味」という絶対基準へで評価を決めることが極めて難しいジャンルだからだ。
その証拠に、グルメランキングサイトのカレーの部などを見ると、チェーン店の「CoCo壱番屋」を「美味い!」と評価する人もとても多いので驚く。あの程度のチェーン店でもあえて美味いと主張する人の評価などは基本的にまるでアテにならないのだが、実のところラーメンやカレーに限らず、世の中の大半のプロダクツ/サービスというのはそんなものだと思う。もちろん、携帯電話端末や各種のモバイルサービスなども、こうした範疇に入るものであることは言うまでもない。
小資本からはじめるベンチャーや、あるいは個人で事業をはじめたいと考えながら実際にはなかなか実行に移すことのできていない「ワナビーSOHO起業派」の多くは、往々にしてこのポイントを誤解していることが多いように思う。
大抵は、サンラインのようなやり方の逆を行こうとしてしまうのだ。
「なるべく多くの人に好んでもらいたい」と考えるあまり、多数決的に受け入れられるモノやサービスをやってしまうのだが、よほどの企画力でもない限り、それではまず第一に話題にしてもらうことすらできないだろう。
いくら万人受けするものを作ったところで、他と際立った違いがなければ、自分の仕事に付加価値は付けられない。それで、いわゆる「根性営業」に頼ったり、無益な価格競争に陥っているモノやサービスがいかに世の中には多いことか。
最近、週末起業やら、成功法則やらを売りにするBlogは大変に多いようなのだが、本当に独立したい人、起業したい人は、実は起業や成功法則を説く商売それ自体が、すでに「産業」になりつつあることをもっと認識すべきだろう。
サンラインの店主が、「他店のカレーは一切試さない」と言ったように、万人にとって成功できるアイデアなどは、他人が既にやっていることの中には存在しないと思うのだが。
まずは、世の常識に対して、サンライン店主の言葉を借りるなら、「7割の人にとって受け入れられない常識」を打ち出してみてはどうだろう。それが話題とされ、存在を広く認知してもらうことに成功できれば、あとは残り3割にだけ受け入れられるやり方を貫けばいいのだと思う。
少なくとも、SOHOなどの個人事業者や小規模法人ならば、それで十分に売り上げと利益は確保できるのではないだろうか。
僕自身も常々、そうした「7割の人に嫌われる店」になりたいと思っている。
ただし、今のところはまだまだ「嫌われているだけ」なんだけどね~。(笑)
| 固定リンク
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/18230/1461119
この記事へのトラックバック一覧です: 7割の人に嫌われる店:
» このブログの方向性 [Lust for Life]
こんにちは。はじめまして、keisukeと申します。
メモ帳上でHTMLタグを縦横無尽に操りながら、ブラウザ上で何度も確認してサイトを更新し続けたのも今は昔。... [続きを読む]
受信: 2004/09/21 11:40
» 嫌われても嫌われても [みせすあばうと]
友達は比較的少ないというか、自分で広げないように付き合ってしまう方だ。付き合っていくうちにいろいろな面が見えてしまい、次第に付き合うのが嫌になる。何をされたとか... [続きを読む]
受信: 2004/09/24 00:43

最近のコメント